今回は少し趣向を変えて・・・  

 

■第二回目  弊社 寄稿記事 「伝統工芸の中の「理」から飛躍する新しい技術」 ※原文から一部加筆+画像追加しております
       
         ★特集 伝統産業の担い手★ 
公益社団法人 全国工業高等学校長協会 編集 「工業教育 5」 VOL48 2012年から


有限会社 竹田ブラシ製作所 代表取締役社長 竹田 史朗/竹田 康洋  共著
1 はじめに

“なでしこジャパン”が昨年、国民栄誉賞を受賞した際、

副賞として竹田ブラシで製作した化粧ブラシが贈られた。

会社名を伏せ、伝統工芸品 熊野筆® という形で紹介されたが、
(正式には「熊野の化粧筆」という表現)

実際は、私どもの製品は、伝統的工芸品(経済産業大臣指定)にはあたらず、

独自の製法による社内製造品である。

数多ある筆事業者の中、営業も居ない小さな会社であるが、

新宿島屋1階に直営店舗(平成15年開設、業界初)を持っている。

そして、常に世界初、世界最高品質を目指した製造を行っている。


2003年開設当時の新宿タカシマヤ1階常設店舗
「Takeda Brush Hiroshima」


2 熊野筆®について

※割愛させていただきます。 ご興味のある方は、冊子をご購入くださいませ(※弊社では販売しておりません)。


3 竹田ブラシの歴史

竹田ブラシは、

町内初の化粧ブラシ(完成品)専門メーカー竹田逸雄商店として昭和22年1月に創業。

父の時代は、国内向け商品からスタートし、昭和30年前後から輸出を開始。

昭和45年、46年には輸出貢献企業として通商産業大臣表彰を受けた。
(当時輸出比率は9割超)

昭和46年のニクソン・ショック以降、赤字が続く中、昭和55年に私が会社を継いだ。

父から受け継いだ信頼と職人を基に、常に世界初を目指す開発を開始した。

スライドブラシ(昭和57年開発  右 写真 参照)は、

世界中のコピー品を含めると似たものを見かけた方も多いだろうが、 弊社がオリジナルである。

西ドイツの会社から依頼を受け、世界初の製品として設計、開発したもので、

現在までに400万本以上出荷している。

スライドブラシ




携帯用スリムリップブラシ(同年開発)も、

穂先のサイズが従来品と同じ大きさで、それを収納する金属ボディを最も細く設計した製品として、世界著名ブランドに即採用された。

当時の量産体制ともマッチし、国内にも販路を広げ、経営が好転。(一方で新規性のある製品での失敗も多数経験)
 
この頃から、西欧と日本の技術と融合させた新しい製造法を模索し始めた。






写真2 No.58C
そして、世界中の同業他社製品を二度と使えなくするという意識で開発した

携帯用リップブラシNo.58C(平成元年開発従来品と比較し毛量が2倍「ラウンド型」)は、

平成7年にテレビ番組での紹介の影響で爆発的ヒット (左 写真2参照)。

これは、現在も弊社の看板商品だが、

実は、部品の一つである金属バネの金型の改良を現在までに4度行っている。

この穂先を作る職人は、平成13年にNHKBS2「ザ・プロフェッショナル」にて紹介。

イタチ毛製品の毛抜け「5年間保証保証書」は業界唯一である。(平成13年に開始)

これを境に世界一の品質を目指す、

現在の少量多品種の生産スタイルに徐々に移行した。

平成13年以降は、

国内の百貨店でお客様への直接販売を行う機会に恵まれるようになり、

平成15年には業界で初めて新宿島屋にデパート内常設店舗を開設。

※東京の、しかも有名百貨店の1階に常設店舗が持てるというのは、
 この当時は夢のまた夢というレベルのお話でした。
 当時、実現にご協力くださった皆様、本当にありがとうございました。

2002年の新宿タカシマヤ1階特設会場でのイベント
メイクアップショーなども行い、
業界でも記録的な売上を達成。
百貨店の1階での催事は現社長の
20年来の夢でした。




No.FW3000
関西ローカル「ちちんぷいぷい」で紹介
 平成17年には、

  洗顔ブラシ(業界初の化粧ブラシ規格の洗顔ブラシ:平成11年開発 左写真)が

 テレビでの紹介の影響で、最大納期1年を記録した。

 (この頃を境に、熊野内も含めコピー品、類似品が広まった)


“なでしこ”の件の直近の3年間、赤字が続いた最中、

今までの情報の整理、そして、試行錯誤の中、

さらなる品質UPを目指し続け、 副賞製造の幸運に恵まれた結果、

現在はブランド「竹田ブラシ」としての職人の品質意識も非常に高い。

4 竹田ブラシの製法と考え方

 最初にも触れたが、竹田ブラシの製品は伝統的工芸品の熊野筆には、該当しない。

水(墨)を対象とする書筆(または和化粧刷毛)と、油・粉(化粧品)を対象とする化粧ブラシでは、
対象物の性質がほぼ真反対であり、使用感を重視するならば、ブラシの製法(性質)もかなり異なって然るべきである。

伝統的工芸品 (指定品には伝産品シール添付が許される)には、製法・原料・プロセスなどに細かい規定があり様々な制約が多い。

書筆の製法を大まかに表現するならば、
籾殻の灰を利用した毛揉み(毛の表面の油を取り除く)に代表される水を効率的に含ませる製造技術である。

一方、化粧筆は、他社の詳細は不明であるが、
少なくとも弊社の化粧ブラシ製造の考え方では、毛の油分を生かす事が重要であり、それによって書筆とは異なる毛の性質を引き出す。

こちらはヨーロッパの考え方・技法に学ぶところが多い。

昔の日本の伝統工芸からは、技術そのものよりも、
日本人ならではの繊細な考え方・感じ方といった、より本質的な「理」に学ぶところが多い。

シンプルに言えば毛の特徴を生かすという一点につきるが、
結局、観察と技術の研鑚、細かい工夫の繰り返しの「今」が、現在の技術である。

化粧品は流行の変化が激しく、また、機械等、他分野の技術も日々進化しており、
化粧ブラシは、進化する生きた伝統産業として、様々な技術や知識を取り入れる段階にあると私達は考えている。

5 グローバル化と竹田ブラシ

ここ数十年の世界的な動向は、大きく見ると、製造業軽視に流れ、
経済効率重視によるモノ作りの一様化・量産化によって、技術伝承、モノの使い方の伝承などの重要な要素が、
どんどん失われているように、私には見受けられる (業界としての熊野筆®の現状も例外ではない)。


長く愛用でき、試行錯誤しながらでも技術を育てるような・・・

何度も修理や工夫を繰り返しながらでも使い続けられるような・・・

そんな 道具に出会うのが非常に困難になっている。




職人が手掛ける道理にかなった道具は、実は不器用な人でも使い易い事が多い。

道具としての懐も深く、使いながら無心に楽しめるので、モノの道理も発見し易い。


一方、量産品は、一見簡単なようでいて、習熟の難易度が高いものが多い。
教材として見かけるケースも多いが、よほど手先が器用でなければ、
「何となく使える」程度の「習熟の入り口」付近で立ち止まり、モノの道理になかなか向き合えない。

モノの道理を知る機会が減っていく結果、
価格重視の考え方に押され、少し値が張る良質な道具の作り手は徐々に減り続け、
そのかわりに増え続ける量産品は、本来、重点的に手を掛けるべき本質的な部分の手間をどんどん削っているが為に、
半ば使い捨て状態で、使う際の工夫の余地がますます少なくなってきているように感じる。

そして、良質な道具に成り代わり、
「こだわりの職人技の手作り」などと表現された量産品すら出回る有様。

巨大な宣伝力を駆使し、アピールばかりが、より曖昧に、より過大になり(時には詐欺的に)、
正確に情報を流すべき個性(定量的な数値)や製法(手作り等)ですら演出の場合もある。

結果、「量産品」と「手作り」の区別すら曖昧になり、

ますますモノが分かりにくくなる、まさに悪循環だ。

現実問題として、現在は、良質な天然毛(我々の主原料)も手に入り難い。
私どもがブレる事なく、良質なモノを探して適正な価格で買い支える事、
本質的な良質さと新しさをもったモノを生み出し続ける事で担える役割は大きいと実感できる。

2012年現在 、竹田ブラシは、世界初の片手のワンタッチ操作で蓋が自動開閉しブラシが出入りする製品の商品化に着手している。 

参考までに、この構造は、リップクリーム、口紅の容器にも応用できる。
そして、“なでしこ副賞”製造以降は、注文数が大幅に増え、
受注量が製造量をはるかにオーバーしている状況の中、時間あたりの製造量を求めず、
さらに丁寧に、さらに良い物を追求していく事を忘れないよう心掛けている。


6 最後に

私は製造者であると同時に活動的な消費者であり続けるよう心掛けている。

売れるモノにフォーカスするだけなく、より本質的に良いモノとは何かを、自分なりにシッカリと観察し、
味わいきる事を心掛け、その中で育まれる消費者の視点を製造者として大切にしたい。


良い化粧ブラシは、使い手の技術に関係なく、シンプルに使い易く技術を育ててくれる製品、

長く気持良く愛用でき、結果的に安い買い物だったと感じれるような製品ということになるだろうか。


コンセプトを明確にし、用途に合わせた使い方、お手入れ方法の説明を丁寧に行うことも重要だ。

こうした消費と製造の繰り返しは、別のご褒美も与えてくれる。
他地域・他分野の良いモノを真剣に考え、逞しく生み出そうとしている作り手達と出会う機会がどんどん増えている。
必ずしも直接自分自身の製造に結びつかなくとも、彼らとそういった気持を共有しながら、
将来の製造について、そして新しさの創生について意見を出し合い、

それが、また、本質的な良さを持った新しいモノを生み出す事に繋がっていくのは、格別の嬉しさである。